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自動車部品メーカー・アイシンが美容業界に挑戦する理由。Hydraidは美の未来を変える?

井上慎介(アイシン)×横山慶子(アイシン)×増田拓海(アイシン)

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2021年4月にサービスを開始したアイシンの「Hydraid(ハイドレイド)」事業。世界最小(※)の水粒子変換技術「AIR(アイル)」を使った、まったく新しいヘアケア機器は、首都圏の美容室を中心に少しずつ広がり始めている。

長く自動車部品の開発を手掛けてきたアイシンが、なぜ美容業界に参入したのか。今回は技術開発者の井上慎介氏・横山慶子氏、デザイナーの増田拓海氏に、技術の確立や研究、デザイン、販促などさまざまな観点から話をうかがった。

新しい美容機械の導入事例が少ない美容業界で、美容室とお客さんに納得していただくための必要な技術とデザインとは?

※水粒子を生成する加湿技術の比較において(2023年4月15日現在 アイシン調べ)

取材・文:榎並紀行(やじろべえ株式会社) 写真:三浦知也 編集:株式会社CINRA

左から増田拓海氏、横山慶子氏、井上慎介氏

快適な生活空間の研究から生まれた「世界最小の水粒子」(※)

―そもそも自動車部品メーカーであるアイシンが、なぜ世界最小の水粒子であるAIR(アイル)の研究・開発を始め、そこからいかにHydraidの構想に至ったのでしょうか?

井上:アイシンは自動車部品の開発・製造が全事業の95%を占めていますが、残りの5%はBtoC向けにホームエネルギー、ベッドやトイレなど生活関連事業を手がけています。

十数年前から寝室内の温度や湿度を調整するシステムの研究・開発をスタートし、そこから生まれたのが空気中の水分子を「水粒子」に変換する技術です。たとえば、これをベッドに使えば、寝ているあいだでも寝室の湿度を保つことができ、快適な眠りをサポートしてくれます。

※水粒子を生成する加湿技術の比較において(2023年4月15日現在 アイシン調べ)

アイシン イノベーションセンター AIRビジネス推進室 室長 井上慎介氏
ガスに含まれる水素を使う家庭用自家発電機「エネファームtype S」

―こうした水粒子の研究がAIRのもとになっていると。

井上:そうです。2015年から大学との共同研究を行なうなかで、水粒子が人の肌に長時間にわたって留まり、保湿効果を生むことがわかってきたんです。

さらにそのメカニズムを突きつめた結果、「世界最小の水粒子」であることが解明できました。これを寝室空間だけでなく、美容領域をはじめさまざまな分野に活かせるのではないかと考えたのが、Hydraidの着想に至った経緯ですね。

空気中の水分子を、キューティクルの隙間より小さい水粒子に変換するHydraid。カラーやトリートメントなどの薬剤放置時間を、髪の内側まで水分を浸透させる時間に変える

―2022年12月現在、都内を中心に20台ほど美容室に導入されていますね。

井上:2022年5月に展示会に出展したり、美容室と合同で勉強会を行なったりして、徐々に認知と関心が高まっています。お問い合せもかなり増えましたし、こちらの情報発信に対する反響も増えてきた実感がありますね。

現在は首都圏の美容室にトライアルとして機器の貸出や貸出前の事前体験を行なっており、多くの美容師の方にその効果を実感していただきたいと思っています。

Hydraidの体験ができるアイルマーケティングベース東京(赤坂)。体験予約はこちらから

―美容師の方々からの反応はいかがですか?

井上:とくに素髪の状態がとても良くなるというお声はいただいています。髪の毛は水に濡れて乾くときに乾燥によるダメージを受けるのですが、Hydraidを使うとそこが変わると実感していただいている方が多いですね。

横山:美容師の方の指先の感覚って、私たちが想像していた以上に鋭くて、Hydraid使用後の髪の毛を触るだけで、違いを敏感に感じられるようです。

たとえば、とある美容師の方からは「髪の毛の中の方まで水が入った感じがする」とおっしゃっていました。また、もともと髪の毛が乾燥しがちだったお客さまがHydraidを1年使い続けた結果、髪の状態が潤い、整ったというお声もいただいています。

アイシン イノベーションセンター AIRビジネス推進室 横山慶子氏

野心家の美容師たちからのフィードバックを研究で裏づける

―美容業界への参入を決めた当初、業界の市場の可能性をどう見ていましたか? また、そこで戦える手応えはあったのでしょうか?

井上:参入にあたり美容業界のことを調べていて驚いたのは、とにかく美容室の数が多いこと。全国にはおよそ25万店もあり、コンビニの約4.5倍もあるということで、魅力的な市場だと感じました。

また、実際に美容業界の方々や美容室のオーナーさまとコミュニケーションをとるなかで見えてきたのは、意外と新しい機械の導入事例が少ないことです。

トリートメントなどの薬剤はどんどん新しいものが生まれているのですが、美容室に置かれる機器などはそれほど進化していなかったんです。

―だからこそ、勝機があると。

井上:いえ、それはそれで逆にハードルが高いなと感じました。機器がアップデートされていないということは、それに頼らずとも薬剤だけで十分に成立しているということですから。

そこに新規参入の我々が、いきなり大物の機械を売り込んでも、なかなか受け入れてもらうことは難しい。最初は話を聞いていただくだけでも大変でしたね。

―では、そのような状況をどう打開していったのでしょうか?

井上:まずはこうしたテクノロジーに関心を持ち、確かな価値を感じていただけそうな美容師の方々に知っていただこうと考えました。

具体的には、美容トレンドに対する感度が高く、新しいテクノロジーを理解しようとする姿勢を持つ美容室の方々を「Visionary Geek層」と設定し、Hydraidの理想の担い手として位置づけたんです。そして、このVisionary Geek層にHydraidをお使いいただき、現場での検証とアイシン社内での研究を並行しながら効果を立証していきました。

―たしかにAIRは目に見えないものだけに、実際に使っていただかないと効果や価値が伝わりづらいですよね。

横山:そうですね。実際に機器をお使いいただいた美容師の方からのフィードバックなどをもとに、アイシン側でもさまざまな角度から効果を裏づける研究を進めています。

たとえば、髪に5ミクロンほどのX線を当てて、毛のなかの構造を見る実験では、普通のスチームで水を与えたときとAIRを与えたときとで、髪の毛の繊維の動きが明らかに変わることがわかりました。また、髪の毛は一度濡れて乾いていく際に一本ずつ角度がつくのですが、普通の水の場合はその角度がバラついた状態になります。

しかし、AIRを使ったあとだとバラつきがなくなり、それがHydraid施術後の質感の良さにつながっているのではないかという推測が立つんです。このように、さまざまな角度からの検証を積み重ね、AIRが髪の毛に与える影響のメカニズムを解き明かしています。

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