自動車部品メーカー・アイシンが美容業界に挑戦する理由。Hydraidは美の未来を変える?
井上慎介(アイシン)×横山慶子(アイシン)×増田拓海(アイシン)
―アイシンとして初めて手掛ける美容機器。プロダクトデザインについては、どのようなアプローチで固めていったのでしょうか?
増田:HydraidのメインターゲットであるVisionary Geek層は技術だけではなく、デザインに対しても強いこだわりを持っているので、デザイン面でも関心を引き、使ってみたいと思っていただけるものでなければいけません。
Hydraidは決して安くはない製品なので、価格に見合う上質さや信頼性を感じられることもポイントでした。それから、美容室に置いたときに、空間が華やかになったり、よりリッチに感じられたりすることも重要です。
ヘアスチーマーなど従来のスチーマーや促進機はどちらかというと美容室の空間を邪魔しないよう、存在感をなくしたシンプルなデザインのものが多く見られました。しかし、Hydraidはそれなりに大きい機器なので、存在感を消すのではなく、あえて空間のアクセントとしても置きたくなるようなデザインを目指しました。
―デザインの手掛かりを得るために、どんな情報収集を行いましたか?
増田:既存の美容機器のリサーチはもちろん、ほかのジャンルのプロダクトデザインのベンチマーク分析も行ないました。とくに、音を出すスピーカーや香りを出すアロマディフューザーなど、「目に見えない何か」を出すプロダクトは参考にしましたね。
HydraidもAIRという、目に見えない微細な水粒子を出すものですから、「見えないものが出る機械とはどうあるべきか」という点は徹底的に考えました。
―具体的にどのような点を意識したのでしょうか?
増田:その機械を使うことでどんな体験が得られるのか、プロダクトの形状からそれを予感してもらうことが大事だと考えました。Hydraidでいえば、水粒子が静かな風とともにゆっくり出てくるので、頭をやさしく包み込むようなワイドな造形と、やわらかな曲線のフォルムにしています。
美容師の方が使いたくなることはもちろん、お客さまに「癒されそう」「気持ちよさそう」という期待感を持ってもらえるようなデザインを意識しましたね。
―たしかに、いくら美容室がその価値を認めても、そこを訪れるお客さまが使いたいと思わなければ意味がありませんよね。
増田:そこは今回のプロダクトならではの難しさでした。これまでアイシンがつくってきた製品のうち、自動車部品はBtoB向けが多く、生活関連事業など一部のBtoC向け製品も、購入者=エンドユーザーというシンプルな構図でした。Hydraidに関しては美容師の方々と、そこを訪れるお客さまという2種類のユーザーが存在します。つまり、その両方に受け入れられるデザインでなくてはならないわけです。
美容師の方はHydraidを「設備」として認識するので、使いやすくシンプルなものが欲しいと思うでしょうし、お客さまは「美容機器」として見るので、ある種の期待感やワクワク感を抱かせるような見た目である必要があります。その両立やバランスは難しかったですね。
―ちなみに、アイシンの自動車分野で培われたデザインの知見などは、今回のHydraidにも生かされているのでしょうか?
増田:そうですね。同じデザインチームにいる自動車部品のデザイナーから意見をもらうことはありました。自動車部品では使用性や感性評価などユーザー視点でのデザイン検討を徹底的に行なっているので、そういった視点を取り入れて最終デザインを作りこんできました。
先ほどお話しした、美容室を訪れるお客さまの感性に訴えかけるような美しい曲面などの造形的な表現も、自動車に通じるものがあると思います。また、長く自動車部品のグローバルサプライヤーとして事業を展開してきたアイシンには、技術開発と設計、デザインまでを一貫して行なえる体制があります。
今回のHydraidでも、モックアップをつくって技術開発や設計側からフィードバックをもらったり、逆にこちらから要望を出したりできたのは、アイシンならではの強みなのかなと感じますね。
―横山さんはAIRの研究者として、増田さんはHydraidのデザイナーとして、今回のプロジェクトを通じてどんな課題を感じましたか?
横山:課題は当初からずっと変わらず、「美容師の方々が感じてくださっているAIRの価値を、研究の視点からいかに裏づけていくか」ということです。
同じ美容室でも、スタイリストによって施術のスタイルは異なりますし、機器や薬剤に対する考え方、それを使ったときの効果の感じ方もさまざまです。できるだけ多くの方にHydraidを体験していただき、いろんな角度からのフィードバックをいただきたいと考えています。
それによって、われわれ自身もまだ気づいていないAIRやHydraidの良さが見えてくるかもしれません。今後もこれまでと変わらず、多方面からAIRと髪の毛の研究を続けていきたいと思います。
増田:デザイナーとしての課題は、Hydraidの価値をよりわかりやすいかたちでエンドユーザーであるお客さんに広げていくことです。
たとえば展示会での見せ方だったり、製品の説明の仕方であったり、ウェブサイトやカタログなどのツールだったり、わかりやすく価値を体感できるような仕掛けをデザインの側面からもサポートしていく必要があります。まずは、そこに取り組んでいきたいですね。
―では、最後に井上さんにうかがいます。今後のHydraidの展望、さらにはAIRシリーズのビジョンをお聞かせください。
井上:まずHydraidについては、せっかく美容の世界に参入したわけですから、ただ機械を売るだけではなく、もっと業界に本質的な貢献ができるような取り組みを進めていきたいです。
たとえば、AIRの研究で得られた髪の毛に対する知見などを活用し、美容室の方々との勉強会を開催するなど、広い視野でさまざまな仕掛けを考えています。
また、AIRとしての展望ですが、この技術は世界に通用するものであるという自信を持っています。美容に限らず、食や医療といった新しい分野にもチャレンジしながら、世界中にAIRの価値を広げていきたいですね。
〒107-0052
東京都港区赤坂4-4-8 VORT赤坂Ⅱビル6F
Tel:03-6206-4058