自動車部品メーカー・アイシンが美容業界に挑戦する理由。Hydraidは美の未来を変える?
井上慎介(アイシン)×横山慶子(アイシン)×増田拓海(アイシン)
※:インタビュー撮影時のみマスクを外しています
取材・文:株式会社雪か企画 写真:タケシタトモヒロ 編集:株式会社CINRA
新型コロナウイルスをはじめ、AI技術の発展など、現代は予測しづらい変化が起きる時代。先行きが不透明なことから「VUCA時代(※)」と呼ばれる。今回のセミナーは、こうした状況にも順応するために、美容室の店舗パフォーマンスを最大化し、最高の成果を生み出すリーダーのあり方を考えるという内容だ。
講師として登壇したのは、セブンフォールド・ブリス代表取締役の本田賢広氏。エグゼクティブコーチとして、企業の経営幹部に対し、リーダーシップや人材育成に関する研修を行なっている。セミナーには、美容室店長から副店長、今後リーダーを目指していく若手まで、幅広い世代のスタイリストが参加した。
※「VUCA」とは、「Volatility(=変動性)」「Uncertainty(=不確実性)」「Complexity(=複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字をとった言葉で、「不安定で変化が激しく、不確実かつ複雑で曖昧な世の中」を指す
まずは、それぞれ異なる美容室から集まった3~4人で1組になり、「同僚や後輩の育成に関して、抱えている悩みや課題」をシェア。普段、ほかのお店のスタイリストと意見を交わす機会はあまりないという参加者が多かったが、互いに共感し合いながら、相手の話に聞き入っていた。
本田氏が語ったのは、若手を育成するうえで意識するべき成功循環モデル。いきなり結果の質を求めるのではなく、人間関係の質を上げるところから始めることで、相手はのびのび思考し、主体的に行動に移すようになる。その結果、成果が伴い、さらに良好な信頼関係を築けるというサイクルを説明した。
人間関係の質を上げるのに大切なのは、相手が安心して本音で話せるような心理的な安心感を生み出すこと。そこで今度は、「どんな上司や先輩に、心を開けなかったか」について、参加者同士でディスカッションを行なった。
自分の存在や話を否定してくる人、すぐ感情的になる人、お客さまとスタッフの前で態度が変わる人など、さまざまな意見が飛び交う。また、頼み事や仕事話以外のコミュニケーションが少ない人には心を開けないという意見に、多くの人が共感していた。
若手育成においては、否定したり決めつけたりせず、相手の持つ価値観をニュートラルに受け止めて、その存在を認めることが重要だと本田氏はいう。参加者たちは、良い結果に対してプラス評価をして褒める「結果承認」と、結果に関係なく、相手の存在そのものを肯定する「存在承認」の違いを学んだのち、存在承認の具体例をグループであげていった。
存在承認の例としては、自分の役割を与えられる、結果だけでなくプロセスを認めてくれる、見たことをポジティブな言葉で伝える、などがある。たとえば「最近練習をがんばっているね」「Instagramにアップしているヘアスタイル見たよ。いいね!」といったもの。参加者は自身のうれしかった体験をもとに、理想の先輩像を語り合った。
本田氏が繰り返し強調したのは、人格を否定せず、相手の価値観をフラットに受け止める「傾聴スキル」の重要性だ。参加者は、2人1組でお互いの話を傾聴するワークショップを実践。どのペアも初対面にもかかわらず柔らかい表情で話を弾ませ、会場はこの日一番の盛り上がりを見せた。
次に本田氏は、フロイトの心理学にある「原因論」と、アドラー心理学にある「目的論」をあげ、どちらが育成やコミュニケーションに適しているか説明を行なった。原因論は、「その現象が起きているのは原因のせいで、原因を変えなければ結果は変わらない」という考え方だ。
人は本能的に足りない部分や原因に目が行きがちであるため、原因論的な考え方に陥りやすい。たとえば、良かれと思って、「ここがだめだったね。なぜできないの?」とマイナス面をばかり追求してしまうことはないだろうか。こうした原因の追求はメンバーとの関係悪化、本人の自信喪失につながりやすい。
一方、目的論は、「その現象が起きているのは、ある目的を果たすため」という考え方だ。「本当はどんな結果になったら嬉しい?」「その理想に対してできていることは何?」「そこからどう理想に近づいていきたい?」など目的をベースに、コミュニケーションをとる方法だ。メンバーと良い関係が生まれ、本人の意欲や自信の向上につながりやすいという。
先ほど説明したとおり、人はコミュニケーションにおいて、原因論的になる傾向があるため、目的論を習得するには練習を積む必要がある。
これらを踏まえ、メンバーを育てるには、マイナス面や原因の追求ばかりでなく、理想的な結果や肯定面について聞いていくサポートが大切であると話した。最後に参加者同士でどのようなリーダーになりたいかを話し合い、セミナーは幕を閉じた。
セミナーを受講した参加者は、どのような学びを得たのだろうか。セミナー終了後に、MINX ginza 2chomeの店長 / ディレクター・徳永利彦氏、HONDA AVEDAの主任・平野善与氏、DEUX HAIR SALONのアートディレクター・大江直美氏に、感想やこれからの美容室のあり方についてうかがった。
―まずは、セミナーを受講されたご感想をお聞かせください。
平野:すごく勉強になりました。参加者のみなさんがあげられていた「存在承認」の例を聞いて、いい先輩たちはちゃんと実践してきたんだなと。理論に基づいているのがよくわかりました。
徳永:ぼくはこれまで若手を褒めることを意識してきたのですが、結果だけを重視してしまっていたのかも、と気づきました。褒めることももちろん大切ですが、まずはやってくれたことやそのプロセスも理解して、相手のことを知る。評価よりもまずは認める、という考え方が新鮮でした。
大江:今日聞いたお話のなかで、自分ができていない部分がたくさんあると感じました。私が働くDEUX HAIR SALONは10年以上同じメンバーで一緒にやってきて、新人がしばらくいません。今度、新しいスタッフを多めに募集しようと思っていたところなので、今日のお話を今後に活かしていきたいです。